滝山の大蛇

 龍蔵寺の裏山は滝山といい、千谷があったといわれるほどの深い山である。むかしから千谷には大蛇が住むといわれているが、この滝山にも一匹の大蛇がいた。
 ある年のこと、住職が突然死んでしまった。この住職は学識もあり、徳望も高く厚い信頼を得ていたので人々は大変悲しんだ。協議の末、副住職に当たる地位の者が住職に就任した。
 ところが、この新しい住職になる者はとんでもない悪人であった。前住職の突然の死は、副住職が住職の徳望をねたんで仕組んだ巧妙な殺人であり、その上、次の住職には自分が選ばれるように、裏でいろいろと工夫していたのであった。
 さて、いよいよ新住職就任の大法要が行われようとしたその時、滝山が地響きをたてて揺れたと思うと、ウォーという物凄いうなり声が聞こえ鼓の滝に突然大蛇が首をもたげ頭を出した。らんらんと光る眼、炎のような赤い舌を口から出す大蛇を見て、みんなわれ先にと逃げ出した。「あれがむかしからいい伝えられている滝山の主という大蛇であろうが、どうして今日急に出てきたものであろうかのう」とみんな不安そうに話あった。
 そのうち寺の方も静かになり一人、二人と恐る恐る引き返してみると、驚いたことに新しい住職が口から血を吐き鬼のような顔をして死んでいた。
 「みなの者、よく聞けー」と鼓の滝から厳かな声が聞こえてきた。
 「驚くことはない。この住職の本心は邪悪で、前住職の徳望をねたみ、これを殺し代わろうとしたので仏罰を受けたのである。今後住職の交代のときには出てきて、異議のないときには尾を出し、心邪悪なるもののときには頭を出して、仏罰を与えるであろう。われは滝山の主、不動明王の使いである」
 これを聞いた一同は、「なるほどそうであったか」と納得し驚いた。
 それ以来龍蔵寺は平和が続き信者もますます増え、不動明王もこの様子を大そう喜んだ。
 もう二度とあのようなことはあるまいと、人々に安心して参詣してもらうためにも、大蛇がでないように滝山千谷のうち一つを隠し大蛇が滝山に住むことができなくしたという。この時から龍蔵寺の滝山は九百九十九谷になったといわれる。

第17番札所(山口市吉敷) 龍蔵寺 住職 宮原 隆史