貧乏神になった観音さま

 昔ある村に貧しいけれども勤勉で信仰心の篤い家族がおりました。
 一人娘の嫁入り前日、娘の末長い幸せを願ってご馳走を作っていた時、玄関の戸を叩く音がし、出てみるとそこには穢い乞食が「私は、もう三日も何も食べていません。お宅は今日は娘さんの結婚前夜、美味しいご馳走を作っておられるでしょう。どうか私にも分けて下さい。」と立っていた。娘の両親は「こんな大切な時に、貧乏神に来られるとは縁起でもない。お前にやるようなものは無い。出て行け。」と箒でたたき出そうとした。
 しかし「お父さん、お母さんお待ち下さい。これも観音さまの思し召しでしょう。私はお気持ちだけで充分にお腹一杯になりました。どうかこの方にも食事を分けてあげて下さい。」と娘が言いました。
 夫婦は娘の言葉を聞いて「そうかも知れない。」と思い直して乞食に充分なご馳走を与えました。
 すると、ご馳走を食べ終った乞食の姿は忽ちに後光が差し、観音さまのお姿が現れたのです。
 驚いた三人が合掌してお姿を見上げると観音さまは「娘よ、この世に幸福だけを求める事は出来ない。幸福と不幸は不即不離である。貧乏神と福の神を共に迎えてこそ本当の幸せがあるのです。」と言って清水寺にお戻りになられたそうです。

第28番札所(島根県安来市) 瑞光山 清水寺